だいわ文庫から文春文庫へシリーズ移籍して、この前の作品の「王子狐火殺人事件」から「殺人事件」ラインが復活しました。
それに伴って、「耳袋秘帖」の作者、根岸奉行のお伴として、二枚目でふられてばかりの坂巻弥三郎と、醜男で剣の達人、栗田次郎左右衛門のコンビが復活し、嬉しいかぎりです。
舞台は川にそって、あちこち転々としながら、江戸の旅情をたたえ、終始、流れの音が聞こえてくるような物語です。
屋形船にぶつかられた渡し船上の殺人事件から、漁師の権益の問題、かつての大泥棒の後釜をゆする同心、謎の薄幸の美女など、犯人にかかわる本筋が一本ひかれているのですが、それに本来かかわりのない脇筋である、加藤清正のふんどしの見世物、銀杏の葉から作った胃腸薬を売り出す菓子屋、宴会で横死した大名、駆けくらで免許を与える剣術使いなど、根岸の雑学的興味をひく小ネタがからみ、舟があちらこちらへたゆたうような風野流のストーリーテリングが楽しめます。
むしろ読後に強く残っているのは、そういうエピソードと、ふむふむ、とそれを玩味しつつ書き留める根岸のえびす顔であったり、臨月の妻の腹をさわって、中に醜い顔の仙人がいて棒でこちらをつついてくるのだと思い込む栗田ら、おなじみの面々の飄逸な日常であったりします。
根岸の書斎にときどきあらわれて慰めてくれる亡妻の幽霊や、猫のエピソードもあいかわらずで、ほのぼのとします。
今回は坂巻の意中のおゆうが、誤解から店をたたんで行方不明に・・ということで次巻も大いに気になります。