三重の山林王の娘葵が、身内の度重なる不幸を越え、日本の香道の再興に尽くす話だ。
「一絃の琴」の苗は人間国宝の秋沢久寿栄「菊亭八百善の人びと」の汀子は八百善九代目の栗山恵津子がモデルだそうだが、小説はいずれも本人存命中に構想されている。
この「伽羅の香」は「香」という没原稿を長編に書き直そうとして、取材するうちモデルとなるべき女性に出会うも、その人はすでに亡くなっていた。
「一絃の琴」では一絃琴を「蔵」では酒造りをと何でも体験して調べる作者だが、ここでも香を窮め、現在でも折に触れ聞いているらしい。
香道の会長となる実兼と汀子の関係が少し物足りないのと、必ずしもハッピーエンドとはいえない終わり方だが、宮尾文学に共通する女性のひたむきな生き方が伝わる作品だ。