・十六歳の日記
・招魂祭一景
・伊豆の踊子
・青い海 黒い海
・春景色
・温泉宿
の六篇に、作者自身の「あとがき」を加えた短篇集である。
最も有名な「伊豆の踊子」は、学生である主人公が暫くの間、旅先で芸人一座と行動を共にする話である。
文章は綺麗で読み易いが、主人公が旅先で踊子(数えで14歳、満12~13歳)に対して試みるストーキングの生ぬるさが、
かなり気持ち悪かった。「物質としての少女」を、少し離れたところから見て、感じて、行儀良く楽しんでいるような……。
少なくとも、巷説に聞くような「恋愛小説」とは思われなかった。
また、踊子の属する芸人一座の人々はなにかにつけて主人公に好意を見せるのだが、
なんで主人公に対してそこまでするのかが腑に落ちなかった。それが当時は「お客様」に対する当然の態度だったのか。
内容には面白みを感じられなかったが、
読み切るのに苦痛を感じることもなかったので(かなりの美文)、全体的な評価は±0と言ったところ。
強いて言えば、昔の文豪の代表作にしてはすぐに読み切れたので、話のタネが手軽に増やせたところは良かった。
個人的には「伊豆の踊子」よりも「十六歳の日記」のほうが心に残った。
日々死に向かう祖父の姿を、当時数え年で十六歳だった作者が淡々と記録した作品なのだが、
衰えてゆく祖父が口にする呆けた台詞の中に、憐れみを帯びた、か細いユーモアが感じられた。
憫笑、という表現が相応しいかもしれない。
日記の最後の一文には、本書に出てくる言葉の中で最も含蓄があるように思われた。
「温泉宿」は、とある温泉宿と、その近くにある娼婦の宿、
そこを取り巻く女たちを描いた作品である。
筋書きが下手な通俗小説よりもぶっ飛んでいて、他に類例がない。
整合性がよく分からない下りもあるが、美文ゆえに勢いで読める。
豪放な女たちの姿は良くも悪くも記憶に残ると思う。