大抵の人が一度は名前を聞いたことがある有名な本です。アメとムチで人を動かすX理論と、目的意識があれば誰もが自ら努力するとするY理論です。ですが、それだけではありません。
この本は3部からなります。第1部が経営の方法の理論的考察。どうすれば人が本来持っている能力を十分引き出せるか。誰にもある自己実現の欲求から、目的意識に基づくY理論を導きます。理論の部分が有名ですが、著者がこの本を書いた意図はY理論を実現することです。
他にも第1部では、現代の企業では従業員の能力はほんの一部しか活用されていないこと、能力があるのは一部の人だけではないこと、責任回避は人間本来の性質ではないこと、などを強調しています。Y理論には理想状態を仮定している部分もありますが、それが経営方法の発展を促すのに必要なことを、物理理論の発展が多くの発明を生み出したことを例に挙げて説明しています。
第2部はY理論に基づいた管理の方法です。上から命令を押し付け、報酬で釣り、罰則で脅すのではなく、目的意識を持つように導き、自ら進んで行動するようにできれば、誰もが期待以上の成果を上げることを述べます。特に第5章の、Y理論に基づく副社長の指導と助言で、上役の顔色を伺うだけでやる気のなかった管理職が目的意識を持ち、部の改革に乗り出す姿は圧巻です。
その他に、ラインとスタッフの役割を述べ、従来の評価制度を批判し、Y理論に近いスタンロン・プランという報酬制度を紹介しています。以上が第2部です。
第3部では管理職の育成を取り上げます。リーダーシップとは何か。個人に内在するものではなく、個人と環境との関係であることを述べ、小さな部門と会社全体では求められるものが違うこと、それぞれにあったリーダーシップが必要なことを示します。
管理職を育成するには、知識を外から注入する「工業的」方法ではなく、環境を整え本人の自発を促す「農業的」方法を提案しています。また、どうすれば集団が効率的になるか、に著者は以下のように答えます。X理論の命令と統制を徹底しようとすると、究極的には「分割統治」となってしまい集団活動の効果が上がらないこと、Y理論に基づき個人と集団の利害が一致すれば、個人の能力の総和以上の成果が出せること、などです。
翻訳については、第1部を原著
The Human Side of Enterpriseのネットで公開されている部分と比較しましたが、著者が直接日本語で書き下ろしたのかと思うほどの自然な翻訳です。第2部は下訳者が変わったためか、第6章と第7章に、誤訳かもしれないやや理解しにくい文があります。この部分は原文を参照できませんでした。第3部は普通の翻訳書の文体に戻ります。それほど日本語として自然ではありませんが、特に理解しにくいこともありません。
最後にPeter DruckerがMcGregorについて書いたことばを引用します。"With each passing year, McGregor's message becomes ever more relevant, more timely, and more important." 「年を経るごと、マグレガーのことばが的を射、時を得、重みを増す。」(私訳)
この本を経営思想の歴史の中に埋もれさせておくには勿体ないと思います。特にリーダーシップに関して気付かされることの多い本です。部下を持つすべての方にお勧めしたいと思います。