罪には必ずそれに相応しい罰が伴う、という真理を教えてくれる名著。
この小説の主人公にとっての罰は、二度目の殺人ということになるだろう。この罰は、彼が最初の殺人に対して罪の意識を持てなかったことの必然的な結果であった。
そのような罪悪感の欠如は、実は彼の正義感と密接に結びついている。彼は子どもの頃から虫一匹殺せぬほどの優しさを持ち、性に対しても潔癖さを保っている。そのことが無意識のうちに彼の中に「自分は間違っていない」という自負心を形成し、殺人を正当化する論理を作り上げていたのである。
彼は不貞を働いた妻を殺害したことを少しも悔いていない。それどころか、殺した後でもまだ相手に対する怒りは治まらないのである。この怒りが嫉妬心から生じたものではなく、彼なりの正義感に由来するということに我々は気付かされる。単なる嫉妬であったなら、彼は犯行後に目を覚まし、罪を悔いることができたであろう。それができなかったのは、彼が自らを「正義」と考えたからなのだ。
自分が正しいと思い続ける限り、人は罪を繰り返すだろう。それが罪悪感に苦しめられるという罰を逃れた者に与えられる罰なのだ。やはり、本当の正義は自らの正義を疑うところからしか生まれないのだろう。