1世紀程前に生まれた作家が、60年程前に書いたリージェンシーロマンス。現代のロマンス小説家が愛読し、絶賛するジョージェット・ヘイヤー。興味津々で読み始めたら、見開きページを埋め尽くす文字の多さや、登場人物の多さもなんのその、夢中で最後まで読み切り、ああ面白かったという爽快感だけが残った。
キスで始まり、キスで終わる、現代のロマンス小説では全くあり得ない程、ホットなラブシーンが全然ないし、本書に於いてはヒーロー役がハンサムですらない。物語が波乱万丈で血湧き肉踊る展開かというとそうでもない。実にリージェンシーらしい、上品な作品である。それなのに、どうして夢中でページを繰りながら思わず微笑んでしまうのか。それは、解説にもある通り、この作者の個性的なキャラクター造詣とユーモアたっぷりの会話センスにあると思う。主人公以外には自己中心的なキャラクターばかりで、例えば、主人公に求婚し続けている幼馴染達。タイプの違う求婚者だが、どちらも自分が正しく、自分に不都合な相手の意見(求婚をはっきり拒否)は全く聞き入れない特性は一致している。当然会話が噛み合わないが、主人公が上手く軌道修正して、その場を切り抜けてしまう。このやり取りもなかなか楽しい。現実にもああ、こんな困った人いるいる、と思わず納得してしまうのだ。結局主人公を最も理解してくれる、ユーモアのセンスも文句なしの放蕩者が主人公と大団円を迎える事が、読者には最初から分かっているものの、主人公の個性溢れる弟や、乳母、執事、義姉親子といった多彩な顔ぶれが、自由自在に動き喋ってくれるので、一々楽しくて仕方ないんである。なるほど、良作は年月にも色褪せないものだと思う。