捕物小説の面白さって、種々制約がある点だと思うのね。
「指紋」も「血液型」も、むろん「DNA」なんて使わずに真相を解明してゆく、人間臭い謎解きプロセスなんかの面白さね。そういう読者の関心を忘れて、調子に乗りすぎてもらっては困ると思うんだわ。
本書では江戸時代の刑罰について、こちら作家先生の思い違いなどを取り上げる。
第2話、『(女郎屋の亭主の)兄さんは橋場で渡世の看板を上げている橋場の海造ですよ。そこには流れ者の剣術家や渡世人が……』
『(お女郎さんが)仕事に身が入らないんでさ、躾の最中でさ。こっちも高い銭だして買ってきた女だ。しっかりと働いてもらわねぇとね。金座裏の親分、見逃して下さいな』…(中略)…『躾といわれれば口出ししようもないが……』
もうし、金座裏の親分さん、あなた、仮にも、お上の御用を承っているんでしょ。ぼんやりしてちゃ困るじゃないの、こんな場面で。
現代と同じように、江戸時代だって「賭博開帳」や「人身売買」は犯罪。どちらのケースも主犯格は遠島だ。
そりゃー、隠れて罪を犯す奴は幾らもいたけど、公方様お膝元のこの江戸で「渡世の看板」を大っぴらに上げる奴なんて居るもんじゃない。いちころで捕縛、島送りにされてしまう。だからこそ、町方役人の手が届かない旗本屋敷や大名の中間部屋、寺院などが、もっぱら鉄火場に使われたってわけ。
また、「身売り」といったって、建前上、許されていたのは「年季奉公」まで。それも最長十年が限度で、「前借金」の利息も最大限、元金同額までしか認められなかった。
もちろん、表向きの奇麗事と、現実の悲惨な実態が、大きく乖離していたのが封建制社会の江戸時代なんだけれども、お役人様や御用聞きに向かって、『銭出して買ってきた女だ』なんて口利いたら、女郎屋の亭主は一発で牢送りになるよ。
それともナニ、じつは金座裏の親分さんも、前々から裏では鼻薬を嗅がされていたくちなの?
そうかぁ、『口出ししようもない』なんていって、アッサリ賭博開帳や人身売買を見逃してやったのって、やっぱり並みの岡っ引みたいに後ろめたいところがあるからなんだ。
そうなんでしょ、金座裏の親分!
『鎌倉河岸捕物控(12)冬の蜉蝣』に続く。