劇場公開されたのは90年代初頭、“髪結いの亭主”のヒットを受けてのミニシアター・ロードショーだったと思います。 80分足らずの小品ながら、キネマ旬報ベスト10でも堂々の2位を獲得。 以後パトリス・ルコント作品は続々日本に上陸しましたが、我々が彼の作品に求めるのはやっぱりこの“仕立て屋の恋”の味だと思います。 私もミステリー映画としてこれ以上ぴったり“波長”のあう作品にはまだ出会ったことがありません。
サンドリーヌ・ボネールの(とびきりの美人というわけではないのですが)小悪魔的な色香、マイケル・ナイマンのせつない音楽、“残り香”や“体温”を使ったすばらしいエロティシズム、どんでん返し、ラストの“覗き・覗かれる者”同士の逆転。 全部好きです。 一組の男女と一件の殺しと、一人の刑事がいればこんな見事な映画がつくれるんだなあ、と嘆息してしまいます。 もし未見の方がいれば、迷わずご購入をお薦めします。 ところで、当時つきあっていた彼女にふられた直後に一人でこの映画を見た私は、ラストのあのヒロインの仕打ちに、“女ってやっぱり怖いんだ”と、息もたえだえになって劇場の階段を上がって外へ出たものでした。 嗚呼青春の一ページ。