最近の若者は就職直後から、すぐに転職を考え始めるという。恐らく、フリーターでも食うには困らないと考えていたり、あふれる就職情報や資格取得による転職ブームの中で、「自分に向く仕事がほかにある」と錯覚していたりするのかもしれない。「仕事をするうえで何が大切か」を説く本著を、新社会人やこれから就職活動を始める人に、ぜひ読んでほしい。「石の上にも3年」ということわざは、若い人にとってはもはや死語となっているかもしれないが、少なくとも3年間は自らが選んだ職場で、地道な努力を続けてほしいと願う。
著者の田坂広志氏は、多摩大学・大学院の教授であると同時に、情報、金融など多くの分野の企業で社外取締役、顧問を務める。田坂氏は、「仕事には『収入』や『地位』という目に見える報酬のほかに、『能力』、『仕事』、『成長』という目に見えない3つの報酬があり、これらを決して見失ってはならない」と言う。一生懸命に仕事をして腕を磨けば、職業人としての「能力」が身につき、自分自身の作品としての「良き仕事」を残すこともできる、さらに、「人間的な成長」も遂げられる、これこそが最高の報酬である、と主張する。
能力というと、すぐに資格取得を思い浮かべる人もいるだろうが、田坂氏は「能力を高めるためには、上司から『言葉で言い表せない知恵』を盗み、何度も失敗と反省をしながら腕を磨くことが大切である」と説く。そう聞くと、周りに「ろくな人物がいない」と嘆く声が上がりそうだが、それを制している。「他人の中にある欠点は、必ず自分の中にもある」という謙虚な心で改めて見渡せば、いかなる職場でも「師匠」は見つかるという。
「師匠を見つけ、彼らの呼吸、着眼、心得を学べ。自分がともに仕事という共同作品を作り上げる職場の仲間に共感しなければ、良い作品は仕上がらない」と、人間関係の築き方についても読者にエールを送る。
プロフェッショナルへの道には、近道もなければ、広き門もない。報酬や地位は結果として与えられる報酬で、自ら求めて得るべき報酬ではない。そのことを愚直に信じることが大切だ、という主張に、評者も全く同感である。
(東洋大学経済学部助教授 白石 真澄)
(日経ビジネス 2003/03/17 Copyright©2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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