青春小説といって一般に思い浮かべられるものといえば、
スポーツか、バンドか、それともひたすら恋愛、とか
そのへんだと思うのですが、今回、三浦しをんが描いたのは
文楽(人形浄瑠璃)にかける青春だ。
主人公の健は、30才ちょっと、青春モノの主人公にしては
トウが立っている気もするけれど伝統芸能の世界ではまだまだ
これからの若手。三味線と人形の動きにあわせて物語を語り、
演じる太夫という役割を舞台ではになう。大先輩のもとでの
修行と公演の日々を送る健。頑固な三味線奏者と組むように
師匠に言われて困惑しつつも、自分なりの役作りや作品の
理解につとめ(心中だの仇討ちだのという古典的な文楽の
テーマやキャラクターを、現代の日常生活におけるトラブルや
自分の恋愛から学ぶ、というパターンがユニークである。
文楽の有名な演目のストーリーにも興味を持てるし)、
精進する健のすがすがしさ、未来への不安など、誰もが
通る青春という季節の危うさ、力強さを感じられて、
大抵の人には遠いはずの文楽の世界に生きる彼がすごく
身近に思えてしまう。三浦しをんが大の文楽愛好家で、更に
すばらしい文章力と描写力を持つ作家だからなしえた
奇跡の様なすばらしい小説である。
最初の章は、文楽についての概要をある程度説明する描写が
多いので、少しテンポがゆったりめ?と思うかもしれないけれど
すぐに入り込めるのでご安心あれ。