女性と仏教史、というテーマで書かれた本としては、現在、もっとも読みやすくおもしろい。通説の修正作業を各所で行なっている本書の学術的な内容が非常に興味ぶかいだけでなく、文章がよい。日本仏教史の研究書としても、また単に読み物としても、第一級の作品である。
「五障三従」といった女性差別的な仏教の観念が受容されたのは、平安の貴族社会はともかく一般の女性たちに関して言えば中世から近世ぐらいがせいぜいだろう、とか、問題化されやすい『法華経』の「竜女成仏」のエピソードも、古代においては、あれは「変成男子」ではなく「即身成仏」のメッセージとして解釈されていた、とか、穢れ観念の浸透にしても室町時代以降あたりからが本格的で、しかもその「穢れ」のレッテルを女性は認めながらも、独自の読み替え(男の不浄ゆえの女の穢れ)を行なっていたらしいぞ、と、色々と興味津々なネタが満載である。
著者は、若手の、フェミニズム・ジェンダー論的なインパクトを受けた仏教史学者の一人であると思われるが、その種の人々に特有の「女人救済」≒「男性批判」的な気負いがあまり感じられないのが好ましい。そうした気負いは、単純に読書を楽しみたい私のような人間にとっては余計に感じられてしまうのだ。過去の女性はこんなでした、現代人とは大分ちがうね、でも似たところもあるね、という発想にもとづく緻密な歴史の語りこそがおもしろいのだ。本書の著者が示しているような。