仏教を学ぶためにはまず仏典を読むのが王道だろう。ところが、素人には原文は読み難いし、現代語訳しても退屈なものが多い。そこで、優れた仏教(学)者による解説本が必要とされるわけで、本書のような現代最高水準の仏教学者による明解な仏典講義は何ともありがたい。また著者は近年、学者であることとともに一人の独創的な思想家としても健闘しており、その思想の深化が仏典読解の要所要所にも取り入れられていて刺激的である。
「死からはじまる」ということで、仏教は釈尊(ブッダ)の死に向き合うことからスタートしたという観点のもとに原始仏教が再考される。また大乗仏教の理説に、<私>を超越しつつ<私>とつながり続ける他者の存在、なかでも最大の他者たる「死者」の存在を読み込む。あるいは空海の即身成仏の思想から、「生」と「死」との表裏一体の様を見出し、親鸞の「往生」の理念にこの即身成仏と近似した発想を読み取る、などなど、著者独自の鋭い見解が満載である。
その他、インド・中国・日本の仏教史の展開を見通しつつ、現代の仏教研究に新たな視座を持ち込もうとしている箇所が随所に見られ、単に読み物として面白い仏典解説書に終始しない、非常に魅力的な作品となっている。