「角打ち」に関する文章がいい。「角打ち」というのは北九州で広く残っている酒屋さんの店頭で酒を飲むこと。「扉のない酒場へ」と題して門司から小倉、黒崎、戸畑などをめぐる角打ち事情のルポは、なんか文化人類学的な興味までわいてきそうな名文。
《短い言葉のやりとりは、それだけを聞いていると、まるで家族の会話のようだ。「いらっしゃいませ、こんにちは」だとか、「はい、よろこんで」だとか、言われてもちっとも嬉しくないお仕着せの挨拶に食傷気味の東京モンには、この、素っ気なさが心地いい》(p.78)なんて文章の他にも、升の角から酒を飲むことから、角打ちという呼び方がついた、なんていう情報もキッチリ入ってる。
ぼくが編集だったら、これらを最初にもってくるのにな、と思いました。
《世に銘酒はあれども、ワタクシ、焼酎が好きです。仲でも、甲類焼酎。大好きと言ってもいい。とはいえ、あの甲類焼酎そのものを好むんではなくてチューハイ、サワー、あるいはホッピーで割ったりして飲むんですが、うん、そうです、静かにゆっくりなんて酒にはならない。ガブガブ飲む。これもひとつのスタイルってもんでございます》(p.142)なんてあたりも率直でいいですね。ここで紹介されている、かつては中目黒、いまは祐天寺に移ったというレモンサワー発祥の店「ばん」にも行ってみたくなりました。