大正生まれの筆者による、昔あって今は失われたものエッセイ。
「腰巻」「蚊帳」「居候」「つけ文」など、
昭和をよく知る者には懐かしくも、
今は無くなったか言葉だけが残るものごとや習慣などを語る。
筆者は何しろ齢80を越えた婆さまであるから、
「おぼこ」「出合茶屋」「花柳病」など、
気品をもって語るのは少々むずかしいことも堂々と書く。
特に味わい深い「夜這い」の項では、万葉集の歌からはじまり、
「その道」を極めた津軽の古老の話へと続いていく。
それはもはや、「夜這い道」であり、
男にとって欠かせない人間修行の場だった、という風になる。
古老の話に深く納得した佐藤愛子、振り返って今のお手軽なセックスを、
「コソ泥セックス」だと切り捨てる。
この話に象徴されるように、今は無くなったものの中に、
失ってはいけない何ものかがあったのではないか、という彼女の視点がある。
が、そんなことを考えずとも楽しめる随筆であった。