昭和40年突如失踪した大島裁という市井の人物の消息をその婚約者が追っていく不思議なドキュメンタリー。 結論らしきものがないので(大島氏が帰ってくるわけでもないし失踪の理由もわからないので)ちょっと何か一味足りないような気もしますが、人間というのは摩訶不思議なものであり、それをまるごと掴もうとする今村監督の後期の作風の萌芽がここには窺えます。 大島氏の婚約者の女性が、撮影が進むにつれてインタビュアーの俳優、露口茂さんのことを好きになってしまったり、しまいにはその婚約者の実の姉が大島氏を毒殺したなどと言い出す霊媒師が登場し、さらにはその姉と大島氏の関係を裏付ける証言者が何人も登場してきますが、姉はその疑惑を全否定し、証言者たちと大激論になる、という珍事が続出します。 今村監督はやはり撮影所全盛期に映画作りを身に付けた監督だけに、結論のないドキュメンタリーでもなんとか人間の心の闇の中へ突入して行き、観客に見ごたえのある何かを提供しようとするサービス精神が旺盛です。 そこが、人間なんて所詮心の中までは分からないんだからーと、最初から匙を投げてしまっている昨今の監督たちと一線を画すところだと思います。
映像特典として監督の実子である天顔大介監督が撮った今平さんへのインタビューが収録されていて、この作品の成り立ちや興味深い後日談が聞けます。 廉価版が出た今こそ買いだと思います。