江戸川乱歩の短編傑作集、或いは、全集などは様々な出版社から文庫として発売されていて、私自身もその多くを書棚に並べているのですが、この角川ホラー文庫のベストセレクションほど充実した内容が一冊に詰まっているものは他にありません。
その理由は、他社とは一線を画した収録作品のセレクトという点にあります。
江戸川乱歩が残した多くの短編は、ファンの方はもうご存知のように所謂「理知的探偵小説」ものと、「怪奇幻想・異常心理」ものという二つの系統に分けることができます。そこで従来の短編集の多くはその両者を半々ずつといった分量で採って一冊に収めていました。それ故に、収録作品の傾向がどっちつかずということが多くなっています。
しかし、この角川ホラー文庫のベストセレクションは、敢えて「理知的〜」なものは一切収録せずに「怪奇幻想・異常心理」に属する作品のみを収録しているのです。その結果、怪奇幻想系の短編の中でも傑作と名高いものばかりが、一冊の中にみっちりと詰まっています。
探偵小説の古典としての乱歩を求めている方には不向きな作品集ですが、そうでない方には文句なしにオススメできます。私自身も今までは友人から乱歩作品を貸して欲しいと言われた際に、どの短編集を渡すべきか迷ったりしていたのですが、今後は自信を持ってこのベストセレクション1および続刊の2を渡すことができそうです。
出来れば、分冊ではなく一冊にまとめて欲しかったという思いもありますが、さすがにそれは贅沢過ぎるのかもしれません。
田島昭宇氏によるカバーイラストも作品世界に合っていて素晴らしいです。