登録情報
|
親子の美しい想い出を描いた詩が、あの小学生の頃から不吉で哀しい響きを持っている。
人は幸福を求めて生きている。それが行き過ぎると―あまりにも自分独りの幸せを求めると何かを犠牲にしてしまう。よくできたものだ。
犯人は現在の幸せに固執した。被害者は犯人の幸福を損なうつもりなどなかった。ただ一つの願い「会いたい」というささやかな幸福を求めただけだった。
犯人の人間臭さもさることながら、追う側の刑事たちもドラマティックである。棟居刑事はある事件で家族を奪われ大きな喪失感を常に抱いている。やり場のない衝動を捜査にかたむける様は痛ましいほどだ。
追う刑事達の汗も犯人の焦燥も被害者の涙も、このような時代だからこそ輝かしい。こんな『人間性』は今となってはノスタルジックに語られるだけでしかないとは寂しい。この物語を読んで泣けるということは『人間の証明』なのではなかろうか。
若い二人の、愛を叫んだ物語は二人の世界の話である。この話は世界の一部、都会の片隅で起こった愛の破綻の物語である。近視眼的一人称的に愛を語るのは容易だが、この世は個人だけで動いていない。それゆえの悲劇が本書の殺人事件なのだと思う。甘く切ない閉ざされた世界から一歩踏み出して本書をおすすめしたい。
それにしても西条八十の詩は「かなりや」といいこの詩といい、柔らかいナイフのように心に突き刺さり、じんわりと溶け込んでくる。切ない。
映画化され、テレビドラマ化されたこともある。だが、それが、なくてのこの作品は最も哀しく、最もせつなく、最も美しい、そして最も人間を深く描いた作品だと思う。
久しぶりに手にとって見たが、やはり感動した。トリックがどうとか、謎解きがどうとか言う以前に「子供の哀しみ」「母の痛み」「人間の性」に感動した。
若い人でまだ読んでいない人も多いだろう。時代で色褪せることのない作品の一つだ。是非、読んでもらいたい。
東京、ニューヨークと小説の中に時々、挿入される大都会の風情は社会的に冷徹に客観的な様子で描かれていてどきりとする。今はそれが加速されてしまったのか、どうか。
殺人事件は棟居刑事が気が付かない場所でその後も起こる。時代の申し子のような裕福な家庭の子息、社会的名声がある人物たち、不倫をしている人なども登場する。
ラストはせつなく、犯罪者が悪人かというと言い切れない。犯罪者が生まれる社会の構造、人間の業(ごう)を想った。また何より小説冒頭で殺された黒人青年ジョニーの足跡をたどるラストの棟居刑事の語り、彼の少年時代のどうにもならない怒り、その鉾先のくだりはせつなさ、苦しさが胸に沸き立つ感があった。
過去にも映画やドラマとなったそうだがそれはよく知らなかった。今回、めぐり合えてよかった1冊だ。
|
この商品のクチコミ一覧
クチコミを検索
|
関連するクチコミ一覧
|
|
|
|