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1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
是非とも新潮文庫で再版を!,
By 栞ちゃん (東京都) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 人間の壁 (上巻) (新潮文庫) (文庫)
1986年に購入して一度読んでいたのを再読した。四半世紀を経て読んでみると、教育界の時代の変化を痛感する。昭和30年代前半のおそらく九州佐賀県を舞台としている教育界の状況が、まるでノンフィクションのようにリアルに描かれている。一クラス60人近いすし詰め学級。教員不足。産休も満足に取れず、代替の教員も配置されない。このような劣悪な状況の中、教師たちは、貧しくも努力を重ねていく。主人公の尾崎ふみ子先生の周辺にいる多くの教員の姿が、はっきりとした輪郭で描かれている。
組合活動について書かれているため、やや問題小説として扱われているのだろうか。これだけの名作であるにもかかわらず、書店から消えつつあるのが残念でならない。 むしろ、ここに登場する教師一人一人の日常のたゆまない努力、教育に対する情熱を若い人たちにも知ってもらいたい。 ぜひ、手軽な文庫で多くの人に読んでもらえるよう、新潮文庫での再版を期待する。
3 人中、2人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
今現在の教育界の問題を映し出す鏡としても読める,
By tomo1943 (茨城県つくば市) - レビューをすべて見る
レビュー対象商品: 人間の壁 (上巻) (新潮文庫) (文庫)
私は、この作品を、当時の教育界の状況を知ろうとして読み始めたのであった。しかし、それ以上にこの作品の現代的な内容に気付かされることとなった。
この作品に扱われている時間は、昭和三十一年春から翌年五月までの間である、と新潮文庫版(下)で解説の久保田正文さんは書いておられる。朝鮮戦争特需はあったものの鳩山首相の時代であり、池田首相の所得倍増計画(三十六年一月)には間があって国民の生活はまだまだ貧しかった。戦後の民主化は、朝鮮戦争を目前に大きく右旋回し、教育の中央統制も強化されていった。この作品の舞台のS県も地方財政危機に陥り自治庁の支配下に置かれつつあった。教員の首切りが、それを口実に強行され、それはとりわけ日教組の活動を弱小化し、保護者からも切り離そうとする方向で進められた。それに対し教師達は、子どもたちをすし詰め教室から開放して血の通った教育を実現するために、父母とも手を携え自主的で創造的な教育を実現しようと、教育研究集会への取り組みとも合わせて労組の運動を進めてゆく。主人公のふみ子は、炭坑と漁業の町でまだまだ多かった貧しい子どもたちをはじめいろいろな子どもたちを教え導きながら自らも教育の何たるかを身につけてゆくのであるが、他方で、彼女に対する首切り反対から始まって、離婚して去った夫が、第二組合作りという裏切りに走るのを見たりするなかで、教育の場における教師の団結の大切さ、組合運動の役割を自覚するようになって行く。 ひるがえって、現在の教育危機といわれる状況を見てみると、時代と具体的状況は異なるとはいえ、共通の課題が描かれているように思える。文部省の支配が強まり、教育の場に持ち込まれようとする競争原理のもとで、子どもたちは分断され格差をつけられようとしている。教師は、仕事量が増え、強化される管理、一部保護者からの突き上げなど大きなストレスに晒されている。労働組合の組織率は低く、自己責任で何とかすべきと考える教師が増える。他方で、責任回避策を身につけた教師も増える。私見では、これを打ち破るのは連帯を強く意識した労働組合の再構築しかない、と考えるのであるが、それは、まさに主人公ふみ子の探し当てた道である。あの時代の教員がどのような状況に置かれ、どのように行動したか、などを振り返るとともに、状況の違いを超えて、今現在の教育界の問題を映し出す鏡としても読める作品である。
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