"萬画家"故石ノ森章太郎氏が生前もっとも成功したキャラクターだと語ったと伝えられる傑作、「人造人間キカイダー」。このCDは「キカイダー」のアニメーション版(2000年)全12話で使われているBGMのサウンド・トラック。人間の悪を見抜き、その命令を拒否することのできる「良心回路」GEMINI(ジェミニ)を組み込まれたものの、その不完全さゆえに良心と怒り・欲望との狭間で悩み続ける宿命を背負ったジローことキカイダー。家族を犠牲にしてまでもロボット工学に全身全霊を傾ける光明寺博士。その光明寺に資金援助を申し出て接近し、ロボットを自己の欲望の満足のために利用しようとする通称プロフェッサー・ギル。ギルのスパイとして送り込まれ、ギルの命令どおり光明寺の妻を演じ、ミツコとマサルの二人を生んだあげく、スパイであることを光明寺に見破られ、家族をおいて一人去っていく母の千草。ばらばらな家族のありように孤独感を深め、一人苦悩し、ジローの良心回路を修正しようとするうちにジローのありのままを信じ、ジローに次第に思いを寄せていくミツコ。まだ幼いながらも家族の亀裂に深い心の傷を負い、子供特有の鋭さと純粋さの狭間で葛藤するけなげなマサル。
ジロー(キカイダー)は良心回路GEMINIの不完全さに悩み、幾度もギルの放つ刺客に心身ともに窮地に陥れられるが、その葛藤を乗り越え、ミツコの助けを得て、人間さながらに良心(GEMINI)を成長させていく。
このCDにはその2000年アニメ版12話のBGMがそのままに凝縮されており、このCDからだけでも深い「キカイダー」のテーマ性を心の奥底で感じ取ることができると思います。
1, 9, 18曲目はジローが原作中でギターを背負っている設定になっていることから、ギターにゆったりとした主旋律をうたわせたもの。特に1曲目はアニメのOpening曲で、ジローの悲壮な運命と苦悩をmelancholicに"浮き彫り"にした、CD中でも屈指の旋律。
13曲目の"Waiting for the Dawn"は、ジロー、ミツコらの"光"を求めて暗黒を彷徨う苦悩を描いた繊細なピアノ曲。終始ゆったりしたテンポで、導入部A-展開部B-再導入部A’という構成。苦しさや孤独を表す導入部Aの次にくる展開部Bの旋律が、明日への希望を持たせてくれますが、再び導入部Aの旋律で締め括られる。聴くものを見事にジローやミツコの、悲しみと希望の入り混じった世界へいざなってくれます。
14曲目"Equinox"はアニメ中で、ジローがふと知り合った水商売の若い一人暮らしの女性が、アパートの自室の部屋にユリの花を花瓶に活けて飾ってある脇に佇む場面で流れる、ゆったりとしてgracefulなピアノ曲。シンプルな旋律の中にもユリの可憐で孤独な生き様(ユリは、野生では群生しないで、ぽつんと一人ひっそりと花を咲かせることが多いのです)を表現。ああ、ユリの花って、こうだよな、と、植物オタクの私は、何だか(変に)涙が出てきてしまいます。Equinoxというネーミングも、"family reunion"を伝統とする日本の風習と、アニメ登場人物のそれぞれの劇中での役割がオーバーラップしていて、素晴らしい。
最後の22曲目はアニメのEnding曲。深い詩、そして掘江由衣の歌声とback chorusとの間の微妙な音程+リズムの差が、この曲をぬくもりのある一曲に仕上げています。
原作「キカイダー」のprofoundでseriousなテーマ性を見事に表現した名盤だと思います。この素晴らしい音楽を作ってくれた見岳章氏に感謝。今年生誕70年、死去して10年を迎えた故石ノ森センセイも、きっと天国で満足されているのではないでしょうか。
以上総合して、最上級の5つ星としたいと思います。