数多くある人生論の中でも、もっとも重厚な構成で内容が立派な
ものが本書である。
時に難しいとも評される本書だが、確かにキリスト教についての
或る程度の基礎知識がないと分かり難い事があるかもしれない。
それでも大事なところは繰り返し言葉を代えて述べているし、
具体的な例えも書かれているので読み込めば理解できると思う。
さて本書は人間の理性と愛を重視している点が特徴で、
科学技術偏重の風潮に対しては痛烈な批判をしている。
「外界に対する理性的意識の関係は肉体が滅びても消えることはない」
として理性の大切さと不滅さを説く。
また、「快楽の追求は限界まで近づくと、それを失う恐怖のために
苦痛となる」「自分を捨てて、すべてを分け隔てなく愛することが
必要だ」「究極的な愛の形は幼子の『ぼくはなんだっていい』という
言葉にある」として愛の大切さを説く。
しかしキリスト教とは一線を画し、信仰ではなく理性による判断が
大切だとしている。
これらを実践できると、とても立派な人間になれそうな気がするが、
とても難しいことではあるだろう。
老齢になり達観できなければ中々このような境地には辿り着けない。
そもそもトルストイ自身が、晩年において理性と愛を踏まえた行動を
とったのか疑問には思う。
ただし、トルストイの小説や、この人生論が未だに多くの人々に
読まれている事実は、確かに理性の不滅性を実証しているように
思える。