河口五段は無論プロ棋士としても活躍されたが、諸事情があって観戦記を書く立場に転じた。本書は1989〜1993年の将棋界における代表的な対戦の観戦記に加え、棋界あるいは棋士に対するコメントを纏めたもの。著書の年齢もあってか、羽生、佐藤といったかつてのチャイルド・ブランドより、大山、升田、そして中原といった世代への思い入れが強いようである。
本書が書かれた間、大山十五世名人の死去、村山の早すぎる他界、米長名人の誕生、そして羽生を中心とした羽生世代の台頭があった。著者は当然、棋士達と個人的親交があり、また将棋の内容をプロの目で見る事ができるので、コメントは鋭く、また温かい。また、合い間に木村、升田、丸田などの思い出も入るのでオールド・ファンには懐かしいであろう。ただ、私は著者が対戦における心理戦、盤外戦を重視し、この点で大山等に比べ羽生に物足りなさを感じている点に違和感を覚えた(精神面を軽視している訳ではない)。素人がこんな事を言うのも何だが、羽生は将棋のあり方を変えようとしていると思うのだ。その時の気持ちの持ち方で差し方が変るのではなく、極端に言えば最初の一手を差した段階で勝負が決まるといった究極の世界を目標にしていると感じる。
本書の後、羽生は七冠を取った。羽生もその後、紆余屈折があって現在三冠だが、相変わらず第1人者である。現在、名人戦騒動、女流棋士独立運動など枝葉の部分の騒ぎが大きいが、本来の高度な対戦を見せ続けて欲しい。そのためにも、本書のようなご意見番的評論が必要になるのだ。