老いてなお、多くのモノ・ヒト・コトに囲まれている。しかし、自分が築いたその環境に、慣れ親しみ過ぎていて、距離を取って、全体を冷静に見られない。何があるのかも、もう正確には思い出せない。実際のところは、死ぬまで使うこともないものが、ほとんど。そんな雑多な物の山に囲まれたまま、ボンヤリとしたなんとなく不安な空気に包まれて、毎日を生きている。ところが、いざ物が、必要な時に、探し周ってもすぐに取り出せない。そうすると心は一気に不安定に傾き、周りや自分にあたってしまう。
多くの老人に共通のこのような生き方、心のあり方に、精神科医の著者が、アドバイス。毎日を「幸せ」に感ずる老いの生活を迎えるには、どうしたらよいのかを、分かりやすく説いてくれます。先ず自分を囲む生の世界全般を、整理し片付けるのが大事だというのです。着るもの、食べるもの、住むところ、人とのつきあい、趣味の楽しみ方、お金。それらを少なくし、老いた今の自分に必要なものだけに、絞っていくこと。自分の全生活を見直して、物を手放し、捨てていく。そうすれば、すっきりと自分の老後が見通せるようになるというのです。
しかし「勿体ない」時代に生まれた者には、すぐ捨てることは、身に沁みついた処世倫理との抵触があります。また、若者が捨てるのとは違って、老人では代りを何か得るために前のモノを、捨てるのではありません。捨てて補充しません。その範囲は無くなってしまいます。それがいいのだという諦観がないと先に進めません。それを可能にするのは、自分の老いの自覚でしょう。既に老人の時期に入ったことを自覚する年令。同時にすべての生活を見直し、不要なものを、切り分けられる力がまだある時期。その時に、断行したい生活態度だと思いました。