作者の時代小説もこれで5冊目となり、すっかり「手に入れた」感じがします。不器用なところもある作家ですが、文章力は確かなものを持っているので、慣れてしまえば、本来の作風とはかけ離れた、こうした作品も書けるのでしょう。
料理を中心に様々な薀蓄を傾けつつ、センスの良い漢字使いと確かな文章で下町人情噺の王道を闊歩する作品で、広く時代小説ファンにお奨めしたい仕上がりになっています。
この本で初めて倉阪作品を読んで、「面白い!」と思ったら、是非、他の4冊も読んでほしいと思います。ただし、読むのは時代小説だけにしたほうがよいでしょう。
作者の他のジャンルの作品群は、いわば地雷原のようなもので、誤って地雷を踏んづけても、笑いながら吹き飛ばされる覚悟がなければ、入って行けない世界になっています。
それでも入ってみたいという人は、『泪坂』『夜になっても走り続けろ』あたりからどうぞ。