言うまでも無く星新一はショートショートの第一人者だが、本書はそれらとは趣を変えた、星の父親を描いた一代記。
彼の父が明治大正期に製薬会社をやっていて、事業に失敗して現在その存在の無いことまでは知っていたが、この「人民は弱し、官吏は強し(昭和42年)」を読んで、実に陰惨な官憲からの圧力によって窮地に追い込まれたことを知り、衝撃を覚えた。
明治から大正昭和に移り変わり、日本は徐々に国際社会から隔絶され、国内の情勢も乱れてゆく。その時期に星の父・星一は国家権力に翻弄され大敗北した。
当時、星製薬は大企業として日本の経済、産業発展の先頭を切っていた。それが官憲になびかないという理由だけでつぶされたのである。いつの世も正論と正義感を持って行動する者にはやっかみと妨害が付きまとうものなのかと・・・複雑な思いで読み終えた。
本書にも登場する星と関係の深かった政治家、後藤新平の事も合わせて知るとより味わい深く読めるかもしれない。
おすすめは、郷仙太郎「小説 後藤新平」(人物文庫 学陽書房)。