人間にある死の欲動とは? 人格を形成する「超自我」「エス」とは?……シリーズ第2弾の本書は、フロイト後期の精神分析理論(メタ心理学)を紹介しており、第一次大戦以降、理論改造しながら心の深層に鋭いメスを入れ続けた〈フロイト・ワールド〉の一端に触れることができる。
収録しているのは、彼が研究生活の後半に発表した書簡や論文など5編。
表題の「人はなぜ戦争をするのか」は、晩年の1932年にアインシュタインと交した公開の往復書簡。「人間を戦争の脅威から救い出す方法はないのか」――など、アインシュタインが質問したのに対する回答だ。
この中でフロイトは、人間には生を望む欲動とともに、自らの死を望む欲動(タナトス)が存在する、とした「欲動論」を要約。死の欲動は外部に向けられると破壊欲動になることなどを指摘、「人間の攻撃的な傾向を廃絶しようとしても、それが実現できる見込みはない」と、悲観的な見解を示したうえで戦争防止に向け独自の提案をする。この欲動論は最後の「不安と欲動の生」(1933年)で、不安の考察を進めながら詳述されている。
また、「心的な人格の解明」(同前)では、人の心をひとつの装置と捉えた「心的装置論」をわかりやすく解説。前期のフロイト理論で心のうちを〈意識〉〈前意識〉〈無意識〉の“3領域”に区分して考えたのに対し、さらに〈自我〉〈超自我〉〈エス(Es、原始的自我)〉という、人格を形成し、エネルギーを持った深遠な領域まで踏み込み、それぞれの特性や相互関係を解き明かしている。これは精神分析にとって大きな方向転換であり、後に発達する自我心理学の出発点になった理論だ。
このほか、「戦争と死に関する時評」(1915年)において、第一次大戦による道徳の崩壊を欲動論と死の問題、両面から検討。「喪とメランコリー」(1917年)では、愛する者の死に対する人間の反応を分析、それが病へと移行するプロセスを究明している。
全体を通じ、第一次大戦を境に精神分析体系の変革を試みたフロイトは、より心の奥深くへと探求の錨を下ろし、理論を深化させていったことがわかる。中でも「生」と「死」の二元的な欲動を追究した欲動論は、彼が最晩年に確信を抱くまでになったというだけに興味深い。かなり専門的な内容だが、訳者が紙幅を割き丁寧な解説をしているので、これからフロイトを学んでみようという人も比較的スムースに入っていけよう。