本書は、進化心理学というスタンスから、人の記憶や感覚などの錯誤が起こる理由を解説したものである。
本書で扱われている錯誤は、まず第一章で視覚の錯誤、すなわち錯視が取り上げられている。
この錯視が生じる理由と生物進化の関係は、興味深いものである。
しかしながら、この生理的な錯誤現象は、本書の説明の通りであるならば、努力では解消不可能なことでもある。
第二賞では、よくテレビの脳トレ等でも活用されている、チェンジ・ブラインドネス、すなわちゆっくりとした変化には気づきにくいという現象、選択的注意、注意共有メカニズム等が取り上げられている。
いずれも、その錯誤現象が起きる理由が進化心理学的に説明されているが、起きて当然ということである。
そして、これをうまく利用した例として、マジックが取り上げられている。
第三章で取り上げられている記憶の錯誤は、ミステリ小説に良く使用されている。
乱歩をはじめとして、さまざまなミステリ作家が、この記憶の錯誤を利用したミステリ作品を書いている。
そして、この謝った記憶の導入というのは、現実問題として冤罪など、非常に怖いものがある。
第四章では、恐怖という感情の存在意義が述べられている。
さまざまなものや状況に対する恐怖心は、それが必要だから存在するということであるが、これは慣れる、ということが可能である。
すなわち、必要以上の恐怖に対しては、努力による克服が可能である、という点で、生理的進化的に備わったものではあるのだが、他のものとは若干異なっているというニュアンスである。
以下、駆け足になるが、第五章では想像力、第六章では信念、第七章では予測といった、興味深いテーマが扱われている。
ただ、残念ながら取り上げられていることが多岐にわたるため、書く項目についての記述はそれほど深くはない。
進化心理学の入門書といった感じであり、より深く知りたい場合には、巻末に各章ごとの参考文献が紹介されているので、そちらに進んで行けば良い、というスタンスである。
ただし、この紹介されている文献というか刊行書であるが、いずれも科学書として面白いものである。
私は最近、第二章の参考文献として紹介されているチャブリスとシモンズの「錯覚の科学」を読んだが、本書からさらに深く錯覚のことを知るのには、非常に適当である。
バスケットボールのゴリラも、本書と同じように紹介されている。
どちらかというと、認知心理学系の話であるが、そこに進化学をとりいれ、生理的な理由付けをしたのが進化心理学である、と言えるだろうか。
人間の心理というのは不思議なもので、まだまだ未解明の部分が多いものであるが、だからこそ、そこにミステリや怪談が生じる余地がある。
島田荘治の21世紀本格ではないが、非常に興味深いものである。