アリストパネスに代表される時事問題や個人の風刺を主とした古典的なギリシア喜劇は、ヘレニズム時代に入って性格描写やプロットの面白さに重点の置かれた新喜劇へと移行します。性格のタイプによって仮面が定められ、プロットは極度にパターン化される。そのため芝居は同工異曲のものと堕し、しかしそれでも人々は飽くことなく楽しんだといいます。この倦怠の時代、哲学者たちも人間の性格の類型的な研究に興味を抱くようになったといわれ、この著作はその所産です。原題は“Charakteres”で『性格論』とも訳される本書は、つまり人間の性格の分類・類型を主眼とした図鑑のようなものです。
テオプラストスは、アリストテレスの学園の二代目学頭。アリストテレスの学問を受け継ぎ膨大な著作を残しましたがほとんど散佚し、従ってこれはその僅かに残った著作の一つです。部分的に『ニコマコス倫理学』と関連があるようですが、学問的著作というよりは私的な楽しみのための覚書のようなものだったと考えられています。リュケイオン学派の著名な学者にとってこのようなテクストしか時の試練に耐え得なかったことは皮肉ですが、しかしここに存分に発揮された文学的な才能はただごとではありません。時代も文化も異なる我々が読んでも新鮮で、充分に楽しむことができます。当時の風俗に関する予備知識を多少要しますが、本書には詳細な註が付いているので、ギリシア古典を読むのははじめてという人にもお奨めです。