「知的生産」にかんする本はむかしから読んできたが、最近のものでは火山学者の鎌田浩毅・京大教授のものが面白い。
ド派手でオシャレなファッションで、テレビでも十二分に「キャラ立ち」している鎌田教授の一般向けの一連の著作は、理系の思考法を豊かな教養で裏付けた、プラクティカルで、しかも平易な語り口によるものだ。
この意味においては、梅棹忠夫の『知的生産の方法』にも連なる、京都の知的風土が生み出してきた、きわめて良質な部分を継承しているといってもいいだろう。
この本は、『一生モノの勉強法−戦略とノウハウ−』(東洋経済新報社、2009)が生まれてきた背景を探った、ビジュアル・エッセイ集のような趣の本である。前者が、大学生からビジネスパーソンまで、知的生産にかかわる者であれば、すぐにでも使えるスキルやノウハウを紹介した内容の本であるとすれば、後者は、むしろライフワークともなるべき長期的なテーマを探して、じっくり取り組むためには何が本質的に必要であるのかについて語った内容の本になっている。
いっけん軽く読み流せるような体裁の本だが、中身はけっこう本質的なことに触れている。それは「京都」のもつ意味について語っているからだ。個と自由を尊び、人間関係においては適度な距離を保つ風土の京都は、いつの時代も外部の才能を受け入れ、自らを活性化してきた歴史をもつ。東京生まれで東京育ちの著者もまた、ヨソからきて厳しい京都の風土で鍛えられ、京都で自己実現した一人である。
京都の風土で培われた、精神的に豊かな「知的生産な生き方」をつづった本書は、豊かな教養があってこそ知識が生きたものとなり、また自分のペースを守ってこそ創造的な良い仕事ができることを自ら実証している。
氾濫する情報に日々追いまくられる効率一辺倒の東京から、物理的に身を離していることで可能になる「知的生産な生き方」。たとえどこに住んでいようと、自分のなかに「心の京都」をもつことをすすめる著者のアドバイスは傾聴に値する。
なによりも、副題になっている「ロールモデルを求めて」いる著者自身が、読者にとってはロールモデルとなるわけだ。
この本は、必ずしも即効性はないが、より深いレベルでの知的生活を志向するする人にとっての、またとない「自己啓発本」となっているといえよう。