もともとは、幕末期における王政復古との関係で天皇制がそれ迄綿々と生き長らえた理由を、その始原の姿(中世天皇制=政治的権威と権力の二重構造の成立)に遡って理解するための一助になればと思い、「権力を握った幕府(武家政権)はなぜ朝廷を滅ぼさなかったのか」との宣伝文句に絆されて購入したのだが、期待は裏切られた。(事実の羅列はそれとして、個人的には上問に関するひとまとまりの統一的理解のための枠組み(説明)がほしかったのだが・・・。尤も、これは著者の責任ではない。)
断片的には例えば、「公共の福祉を実現するための装置が整備されていない社会にあっては、(飢饉などの非常時に)人々の願いを結集し、形にしてくれる(朝廷が行なう)公事には、現実的な需要と役割が存在したのである」(174頁)、幕府は独自の公事を創出できなかった(176頁)、将軍は京都から派遣され20年ごとに送還された(232頁)、悪党禁圧手続の成立に関連して「得宗や執権が、公家政権への対応の方法を曖昧にしている間に、公家側は、幕府のもつ強制力を、公正な秩序回復機能としてみずからの領域に引き入れる手続きを完成した」(317頁)等といった記述は大変参考になった。(それにしても、万世一系への疑念を述べた天皇がいたとは知らなかった(花園天皇『誡太子書』、339頁)。
著者の記述振りは大変丁寧で好感が持て、随所にキラリと光る発見も見られるように思うが、一方で形式的人間関係についての教科書的な説明が多く、読み物としての面白さからはやや遠かったような気がする。