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感じたのは、作品をうかつに読んでいると井上の何が徳なのかが見えてこない可能性があること。大局的、本質的に観察してこそ井上の功績は認めることができるものだろう。
さて、井上には性格的欠陥が多分にあったと、まずはそう言わねばなるまい。思ったことは歯に衣着せずそのままズケズケと言ってしまうし、正しいと信じた事以外にはテコでも動かない頑固さがあった。そして何より潔癖症であり、秩序だったものを病的に好む。当然周囲との摩擦が絶えず起こり、敵対者を大勢作った。井上のこの性格はついに生涯貫かれる事になったが、しかしこれをもって井上を過小評価することは出来ない。この作品では様々なエピソードを引いて井上成美の人物像を多角的に映し出している。
人間には良い面も悪い面もあって、一元的にその人を「こうだ」と決め付けることはできない。阿川氏の作品ではそういうことがよく踏まえられており、主人公とする人物の欠点、または偉大性ばかりを強調するような書き方はしない。戦時中や終戦までの悲愴な過程を描くときでさえ冷静な筆致は変わらず、距離を置いた観察者に徹している。それだけに読者は物語を客観的に読むことが出来、様々な感慨を自らの頭の中に思い描く事ができるのである。
様々見てきて、最終的にはああいう狂気の時代にこの人物がいてよかったという結論に達するのが本書の主題ではないか。性格はどうあれ、正しい方向に向けて行動し発言できる人間がいなくなったらオシマイである。現代の国の舵取りを見るにつけ、一層それを強く思う。
井上が日米開戦前から「南方諸国を侵略して資源を
盗ってはいけない。資源がほしければ商取引をすればよい」と
現代人と全く変わらない考え方を持っていたこと...。
山本五十六が日米開戦前、当時の近衛首相に問われて、
「とうしても闘えと言うならば、海軍は一年ぐらいは
闘って(暴れて?)ご覧にいれます」と答えたことに対して、
「どうしてはっきり『海軍はアメリカとは戦争できません』と
答えなかったのか」と批判したこと...。
今となっては言ってもしかたがないことですが、
井上成美が日米開戦前に首相であったならば、
真珠湾攻撃は行われず、太平洋戦争もなかったのではと
思わずにはいられません。
太平洋戦争や日本の近代史に関心を持つ方は、
一度読んでみるといろいろと面白い発見がある
一冊であると思います。
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