全国に点在している五重塔の内、11を選んで詳述しています。落雷にも戦乱にも、そして不慮の火災からも守られてきた五重塔ばかりです。その魅力を伝えながら大切な文化財として後世に守り伝えるためにも本書の意味合いがあると思いました。
ほとんどが8ページの分量で説明してあり、興福寺のみ10ページ、元興寺は6ページの記述でした。
冒頭にユニークな活動をしてこられた建築史家で建築家の藤森照信氏(東京大学名誉教授、工学院大学教授)の「人類はどうして塔を立てずにはいられないのか」が掲載してありました。五重塔と直接関連する内容と言うよりもっと大きな文化論でした。一味違う視点です。
ライターの前橋重二氏は、史実を押さえながら平易な文章で書かれていますので、読みすく理解しやすいでしょう。
16ページの見開きには、国宝五重塔の高さくらべがしてあり、一番高いのが教王護国寺(56.6m)、低いのは室生寺(17.1m)とのこと。比較するとその大きさの違いに驚きを感じましたが、見た印象とは少し違うのが意外でした。
女人高野の別名で名高い室生寺の五重塔は、44ページ以降に説明があります。この五重塔の美しさは格別です。愛らしさと優しさが感じられる名塔ですし、得も言われぬ風格が伝わってきます。境内図、断面図、建立年代、建物の規模、構造形式、初重内部、推定、文献などの情報はしっかりと紹介してありました。
興福寺五重塔の明治5年の貴重な写真が掲載してありますが、猿沢の池から眺めるその威容は歴史や風雪を超えて多くの人々を魅了し続けてきたことでしょう。名塔ですし、素晴らしい風景です。
本書に掲載の11の塔とその特徴です。
法隆寺 謎だらけの最古の塔、海龍王寺 工芸的な、余りに工芸的な、元興寺 模型か本尊か、室生寺 すがすがしさの理由、醍醐寺 調和と緊張、海住山寺 動乱の世をはなれて、明王院 繁栄の名残り、羽黒山 神か仏か、興福寺 1200年前から名所、瑠璃光寺 戦国武士の墓標、教王護国寺 空海の塔。