レモン・トロツキー・シリーズの短編と中編を一本ずつ収録.短編「5月ゲーム」はレモン一行の搭乗した宇宙客船がハイジャックされ..というプロット.ダッカ日航機ハイジャック事件に題材をとったコメディですが、軍事行動のきびきびした描写は小気味よくさすがです.問題は中編「妖精の夏」で、党の指令を受けてレモンが潜入した都市でまたしても出口無しの悪夢の世界に放り込まれ..というプロット.その悪夢世界においては「開いた森の幻想世界」と「閉じた予定調和の宮廷劇」の二つの舞台劇が自在に混交し、脈絡無く場面転換し、役者の名辞も目まぐるしく変転、そこにさらに現実世界での闘争が割り込み..といった複雑な描写が続きます.「夢」は野阿梓さんがデビュー作以来こだわってこられたテーマであり、その表現は本作で完成形にいたったのではないでしょうか?もっとも私は読者として小説についついストーリーを追ってしまうので、論理もへったくれも無い「夢」そのものを持続して読んでいくのは結構大変でした.