長年ミステリに興味を抱き続けていると、トリックは知っているが、実作例を読んだことがない、という事例に出くわします。
本作品は、正にその該当事例。
深夜一時。
仕事を終えて帰宅途中のジョン・サンダース博士は、ある家の前で、マーシア・ブライストンという若い女性に、一緒に家の中に入ってほしいと懇願される。
果たして、家の中には、彼女の父親を含む4人が、薬物中毒で意識を失っていた。
しかも、そのうち1人は、仕込杖のようなもので刺殺されていたのだった…。
毒物がどのように盛り込まれたのか、皆目見当がつかない中、刺殺されたフェリックス・フェイが、弁護士に「五つの箱」を託していたことが判明するが…。
カーター・ディクスン名義の第10作である本作品は、1938年発表と、本格ミステリの黄金時代に書かれたもので、現代の小説のような起伏に富んだストーリー展開はないものの、「どうやって毒物を仕掛けたのか?」というハウ・ダニットと、「五つの箱は何を意味するのか?」という謎が読者の興味を引っ張り、飽きさせない物語となっていると感じました。
さて、その結末ですが、予想していたとおり、「噂に聞いていたトリック」が使われていました。
ただ、予想に反して「まとも」。
じつは、噂どおりだと、相当に「珍妙」で、「アンフェア!」と連呼したくなるような内容なのですが、カーはきちんと「フェア」な作品に仕上げているのです。
そのため、「珍妙さ」はなく、変な言い方ですが、「普通に意外な結末」になっています。
バカミスで名高い、「魔女が笑う夜」のトリックも笑って許してしまう私としては、もっと「珍妙」で良かったのに、と思います。
「フェア」なのに不満という、天の邪鬼的な意見、これぞ、「カーに毒を盛られた人間」の感じ方なのです…。