父の遺した三十一文字。で父の人生を見つめた筆者が
今度はこの作品で母の人生に目を向けます。
6歳で養子に出され、住み込みの下女扱いをされる生活が何年も続いたのに
その少女は、天性の愛嬌と陽気さを失いませんでした。
力強い生命力が、その後どういった変遷を辿り、最晩年にどう結実したのか。
生き様のみならず、筋を通した死に様というものを
噛みごたえのある肉を食らうように読みました。身にならないわけがありません。
たくましかった少女は、老いてあらためて自分自身に出会うことになるのです。
老いることはきっと達観ではないのでしょう。生きることからは最期まで逃れられない。
だから、ここには切ない悔恨だけではなく、静かな希望があります。
自身、老境にさしかかった筆者だからこそ、ここには沁みるリアリティがあります。