二宮家直系の子孫である研究者による金次郎の伝記。
著者はまず、巷間流布する「金次郎伝説」(薪を背負って歩きながら『大学』を読む、秋ナスの味から飢饉を予知した等)の検証から評伝をスタートする。弟子の伝記をはじめ、過去の文献の記述を時系列で整理しつつ、金次郎遺言の「予が日記を見よ、予が書簡を見よ」に従い、個々のエピソードがいつどの文献ではじめて「創作」され、「伝説」「物語」として定着していったかを洗い直す。そのプロセスはスリリングでもあり、子孫である著者が、祖先の「肥大化した偉人像」を正そうとする真摯な姿勢にも共感が持てる。また、金次郎の日記にはお金の出入りが克明に記録されており、そこから伺える彼の生活の実像も興味深い。
本書中盤以降は、金次郎が二宮家再興や各藩・各村で展開した「仕法」(経営再建策)の思想と実際を具体的にまとめている。再建策は実に多種多様でツボを押さえており、金次郎の視野の広さ、人間洞察、構想力の大きさに驚かされる。グループ経営(本家分家一体運営)、グラミン銀行(報徳金貸付)、こども手当(養育米)、移民政策(他藩からの植民誘導)など、現代でも行われる政策手法が、すでにメニュー化され、実施され、実効をあげていた点は驚きである。
さらに本書は、それらが単なる経営スキルではなく、金次郎の社会思想(一円融合)の結実であった点も紹介。また、それゆえに封建秩序を揺るがしかねない危険思想として、しばしば各藩政争のタネとなり、仕法実行自体が妨げられた事実にも触れる。二宮金次郎の実像を知るだけでなく、社会活動や社会起業、志と思想をもった経営・政治とは何かを考える上で示唆に富む一冊。(なお、通史としての分かり易さを念頭に書かれていない。金次郎の生涯の概略は知っていた方が読みやすい)