本書に出会うまで私が抱いていた二宮金次郎のイメージは「質素倹約な苦学生」というものだった。おそらく多くの人が抱く二宮金次郎像も同じようなものではないだろうか。しかしながら、本書を読めばそのイメージはがらりとくつがえる。
なんと二宮金次郎は現在と同様に人口減・低成長に苦しむ江戸末期に彗星のように現われた稀代の改革者だったらしい。『五常講』という低金利の融資システムを構築したのを皮切りに、その卓越したコンサルティングによって過疎化した地方を再生させ、果ては180年先を見通した行政改革のマニュアルを作成してしまう。その手腕は現代の私たちからみてもほれぼれするほど鮮やかだ。
金次郎の信条は徹底したコスト意識と効率化だった。その信奉者の一人が豊田紡織の創業者である豊田伊吉氏(トヨタグループ創業者・豊田佐吉氏の父親)であり、連綿と受け継がれた金次郎のスピリットはトヨタ自動車の代名詞である「カイゼン」「カンバン方式」などに色濃く受け継がれていることが本書を読むとよくわかる。
巻末の解説で東大教授の船曳建夫氏が「読む前と読んだ後では、世界と人間についての見方が変わる」と語っているが、まさにそのとおり。最後のページを閉じたあと、胸にわきあがるのは「創意と工夫があればどんな世の中であっても金次郎のようにいきいきと生き抜いていける」という確信だ。下手なビジネス書を片手にぐずぐずするくらいなら、この本を読んでこの時代を乗り切る術を学びましょう。ひとりでも多くの人に手にとってほしい1冊だ。