2クール作品ながら最終回まで一度もトーンダウンせずワクワク感を持続できたのは久方ぶりで、退屈させない構成の巧さが光りました。特に中盤以降、主役は無論、脇役も悪役に至るまで丁寧にキャラを立たせ、個々の背景を想像させる血の通った物語に進化していきました。それは取りも直さず物語の時間を積み重ねることに成功したということです。「罪を憎んで人を憎まない」一貫したスタンスが堅持され、作品と人物への作り手の思い入れが垣間見えるようでした。チコを演じた平野綾にとって美甘千津子(みかもちづこ)役は大きな財産になるでしょう。今や彼女の代表作は「涼宮ハルヒの憂鬱」ではなく「二十面相の娘」である。ワクワクする冒険譚と個々の人生に射す哀しい翳り。青春の切ない情動を隠したジュブナイル。チコにとって運命の人二十面相ですが、彼にとってのチコもまた当初の予感を遥かに凌いでファムファタール(運命の女性)となっていく。千津子に関わる人々は皆多かれ少なかれ、凛とした強さとそこはかとない優しさに心を動かされる。美しく可憐な風貌と明晰な頭脳、強い意志と行動力、抜群の運動神経、奥ゆかしさと慈愛を知る聡明な魂を兼ね備えた美甘千津子はまさに完全無欠のヒロインです。民衆の深層に戦争の爪痕が消え残る昭和の時代設定も少し古風なキャラクターの個性に馴染み、作品を包む清澄な空気感に香る一抹の寂寥が胸に沁みます。運命的でも不確かな絆を揺らがせる流転の波紋がやるせなく、分け合えない孤独をそれぞれに抱えた人たち。安らかな日々への郷愁を置き去りに少女を運び去る波乱の運命のまにまで、凛と前だけを見据える健気さが眩しい。