命あるものの如く沸き出でる水。古都を流れる千年の川。
町家の蹲に降り注ぐ雨。そして人のほほを流れる涙。
これは清らかな水で描いた一幅の文人画だ。
日本の伝統的な職人技を守って市井の片隅に謙虚に生きる老夫婦。
若水を神棚に具え拍手を打つ。床の間の掛け軸をかえ、花を生ける。
雛人形を飾る。夕餉のひと時、燗酒に舌鼓をうつ。
日本という国にほのかに息づく、凛とした美しさと温かい懐かしさ。
しかしそんな彼らの内面には、激しい想いがある。
主人公は頑固で職人気質の男だが、妻の発病によって介護を余儀なくされる。
日々進行する妻の病、慣れない家事、近代化の波に押され困難になっていく家業の継承、
子のない夫婦が唯一心通わせた若者との別れ、そして自らの老い。
男は、次第次第に追い詰められていく。重い足取り。孤独な背中。
だが、そんな苦悩の中で、彼は若き日の、妻への熱く情熱的な恋心を取り戻していく。
いついつまでもずーっと一緒にいたい。
そしてついに彼は決断する。
栗塚旭と藤村志保。お互いの間に流れる空気、ふとした素振り、交わされる視線、
そうした中からにじみ出るのは、長年寄り添って暮してきた実の夫婦の情愛だ。
夫に甘える妻、妻を慈しむ夫。
近年、これほど見事な夫婦愛の演技を観たことがあるだろうか。
多くの映画評での賛辞が納得できる。
中でも栗塚旭の、微妙な表情や背中で語る演技は絶品というほかない。
最後は日本人独自の死生観を表現する、栗塚の圧巻の演技で締めくくる。
観客は誰もが死を、また生を自らに問うているのだろうか。
画面が暗くなっても、すぐに席を立つ人はない。
ドイツの映画祭でグランプリを獲得したというが、日本人の宗教観と美意識を描いたこの映画が
ドイツで高く評価されたことを、何より嬉しく思う。
日本映画もついにここまで来た。