現在の資本主義経済には限界がある。
なにもリーマンショックやドバイショックを見ての話ではない。
合理性を前提としてくみ上げられた現在の仕組みでは非合理な人間が形成する社会を捉えきれないことを本書を読んで実感したからだ。
題名のとおり、不合理性を予測する学問分野が著者が専門とする行動経済学である。後から考えたり、端から見れば合理的でなかったり、損をしたりする行動をなぜとってしまうのか。こういった不合理な行動に合理的な根拠や動機を見出していくのが行動経済学である。本書で取り上げられる様々な不合理な行動の事例や研究・実験は非常に面白い。のぞき見趣味の部分もあるが、MITやハーバードのような理性的と思われる人々も人間として不合理な行動をとっていること、それも著者たちの思惑通りに(時には意外な結果もあったようだが)不合理な行動をとってしまうことが興味深い。どれも面白かったが、個人的にはゼロコストを扱った第3章、選択の自由を扱った第8章が特によかった。
経済学の父とも言われるアダム・スミスももともとは哲学や道徳論を専門としていた(まあ、最初の経済学者だからスタート地点は違うところにあるのは当たり前だが)。行動経済学にとどまらず経済は人間の動きや心理を分析する視点が経済学には含まれている。合理主義的行動を重視しすぎる立場に対して人間の本性も加味していく行動経済学は立派なカウンターバランスとなる分野である。一部では誤解もあるかもしれないが、経済学の異端ではなく、経済学の主流の一部である。
本書は異端の経済学書に見えないこともないが、非常に正統的な経済学の入門書である。読み物として読みやすくなっており、行動経済学のエッセンスにふれるための最適の書のひとつである。反面、理論面の説明は弱いので、さらに学びたい人は別の書も手に取る必要があるだろう。