マルケスでは「族長の秋」とこの「予告された殺人の記録」がもっとも好きです。「族長の秋」が「百年の孤独」の流れを汲む饒舌で混沌とした物語なのに対し、この小説は贅肉を削ぎ落としギリギリまで計算し尽くされた実に端正な物語です。そのため悲劇的な一点に収斂していくプロットはきわめてサスペンスフルで、かつそれぞれにドラマチックで絵画的なエピソードもくっきりと鮮やかに印象に残ります。一般にマルケスのジャーナリスティックな一面が結実した傑作と評されているようで、確かに「百年の孤独」や「族長の秋」のような奇想天外な幻想のとめどもない奔出はありませんが、町を上げての婚礼や衆人環視の中での殺人など、どこか夢幻劇的なシーンが抑制の効いた文体で緻密に描出されており、マルケス特有の魔術的リアリズムも存分に堪能できます。堪能できるどころか、むしろリアリスティックな物語が一転して残酷な白昼夢に変わるような究極のマジック・リアリズムを感じます。とにかく文章の緊密さとストーリーの求心力の強さはマルケス作品中ベストです。