『「いき」の構造』の著者である哲学者(選者いわく、文人哲学者)九鬼周造の随筆集。目配りの利いた選択で、九鬼の性格(抽象と煩悩、冷静と情熱、「あらゆる意味の冒険と猟奇を好む癖」(119頁))や嗜好(端唄や小唄好み、駄洒落好き)、国粋主義者的側面、若かりし頃の進路希望(植物学者、外交官)、複雑な家族・人間関係(父隆一と母波津子、天心・岡倉覚三との三角関係)などが、彼の美しくかつ明晰な日本語を通じ、読後に浮き彫りとなる。(できれば、初出誌と初出年月日を明示願いたかったが・・・)
個人的には、三編選ぶとすれば「青海波」(「甲があれば」(66頁)以下の文章速度感は何だ!)、「東京と京都」(ゲーテの戯曲「トルクヴァート・タッソー」からの引用が印象に残る)そして「岡倉覚三氏の思出」となる。
「左顧右眄して他人の思わくばかり気に懸けていては力の籠ったことは何事も出来ない。世事の煩累や論議の噪音の真直中で確乎たる方角へ導いてくれるものは「人」から離れた客観性である。即物性である。それが「天」である」(62頁)。「私は西郷南洲の「人を相手にせず天を相手にせよ」という言葉が好きである」(61頁)。