哲学者九鬼周造が、日本独特の趣味的感覚である「いき」とは何であるかを概念的に分析し、その分析を通じた日本文化論を展開する。九鬼周造は、日本の江戸時代の文献を多く引用して「いき」の解明を進める一方で、長らく欧州に身を置いていた経験を活かし、西洋の様々な芸術的・自然的表現と価値観との比較を通じて、概念分析を試みて行く。
九鬼周造の分析については、一部は感覚的に大いに理解できるところもあったし(「いき」の関連諸概念の体系を示した直方体モデルや、「いき」の身体的表現等)、一部は彼の主観が大いに入っているのではないかと共感できない部分もあった(「いき」の芸術的表現)。しかしその理解も、やはり九鬼周造が認めるように、「すでに体験としての『いき』を自分のうちにもっているから」なのだろう。(この社会科学の宿命とも言えるジレンマは九鬼本人も明確に認めているところに潔さを感じる。)
私は『
新訳・茶の本―ビギナーズ日本の思想 (角川ソフィア文庫)』(余談だが、著者岡倉天心が九鬼周造に与えた精神的影響は大きく、その背景を理解するのに同書はオススメの一冊)における大久保喬樹氏(東京女子大学教授)の秀逸な和訳と解説に感動し、同氏が解説と編集を手掛ける本書を購入したが、本書でも大久保氏の解説には大いに助けられた。「茶の本」と同様に、本書でも九鬼周造のミニ伝記が巻末収録されており、私はここから読み始めることで、九鬼周造の思想のなりたちにある程度親しんだ上で本編を読み進めることができた。
ユニークな哲学書のように言われる本書だが、「何をクールだと感じるか」という美意識が文化の根幹であることを考えれば、文化論としては極めて真っ当なアプローチではないだろうか。決して簡単な内容ではないが、九鬼思想そして日本文化論の入門書として面白い一冊だと感じた。