『パイロットフィッシュ』『アジアンタムブルー』ともに、同様の熱く重くとんがった情熱をほとばしらせていた大崎氏、ここに来て全く別の恋愛小説の展開をみせてくれましたね。4つの短篇は、それぞれに趣をたがえながら、どれも清冽な気配を失わず、過去の話を語るだけにとどまっていない。そこが『九月の四分の一』のいいところだと思います。2つ目の「ケンジントンに捧げる花束」は、吉田宗八という日本を捨てイギリス人として亡くなった老人を配することで、恋愛小説の域を超えて落ち着いた味わいのあるものになっています。表題作にもなっている「九月の四分の一」は、外国の風物をバックに、もう取り戻せない過去の恋の経緯が明かされる。“クオーター・セプテンバーじゃなくてキャトル・セプタンブル”と、ずっと心に引っかかっていた違和感の謎がとけて、僕が静かに過去の恋を胸におさめるシーンは切なくてちょっと泣けます。大崎氏の本は、いつも装丁がとても綺麗で、今回もステキです。装丁にマッチした内容で満足しました。