本作品は、1940年発表の作品で、カーター・ディクスン名義の第14作にあたります。
第二次世界大戦下、商船エドワーディック号は、ドイツの潜水艦による襲撃に怯えながら、ニューヨークを出港し、イギリスへと向かっていた。
軍需品輸送を目的とした航行だったが、船内にはヘンリ・メリヴェール卿を含む九人の乗客が乗っていた。
やがて乗客の一人、エステル・ジア・ベイ夫人の刺殺死体が船室で発見される。
着衣には犯人のものと思われる血染めの指紋があったため、乗客・乗員すべての指紋を採取し照合したが、誰のものとも一致しない…。
いつ潜水艦から攻撃を受けるか分からないという、緊迫した状態のもと、船内で進められる捜索は、スリリングな場面もあり、割合と起伏に富んだ物語展開となっていますが、そのトリックや真犯人は、正直なところ、あまり意外性のあるものではありませんでした。
しかしながら、この作品を高く評価したくなるのは、その風変わりな題名にあります。
「乗客は九人。そのうちの一人の死によって、もうひとりの人物が船内にいるらしいということになった。それならば、乗客は十人だ。」
−−といった意味の題名ですが、読み終えてみると、なぜ作者がこのような題名を付けたのか、そこに込められた思いがけない策略に、読者は深く納得させられるはずです。
カーの諸作の中でも恐らく上位に入るのではないかと思われる本作品ですが、かつての探偵雑誌「宝石」に昭和32年に掲載されたのみでずっと入手困難であったそうです。
本書の刊行により容易に入手でき、しかも読みやすい新訳で本作品に臨むことのできる現代の読者は、私を含め、大変幸福だと言えるのではないでしょうか。