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本書の191ページにフルトヴェングラーとヒトラーが一緒の写真が載っている。演奏を終えたばかりらしい指揮者が壇上から右手を出し、ヒトラーは舞台下から例のポーズで右手をほぼ90度にしている。これは、フルトヴェングラーのほうから握手を求めているようにも見えるし、逆にナチス式敬礼を避けてこんな奴の傍から早く離れたいと苦々しく思っているようにも見える。フルトヴェングラーのヒトラー嫌いについては、様々な記述や証言が残されている。
丸山の音楽センスも大したものだが、著者中野雄のそれも見事だ。丸山の音楽観を紹介しながら折に触れて語られる彼の感想も、とても的確で鋭い。私にはとても教えられるところが多かった。音楽について語られた本の中でも、トップクラスにはいると思う。
丸山がいかに西欧の古典音楽が好きであったか、とくに晩年は「本店」としての政治思想史の学問をうっちゃるほどに入れこんでいたことが、本書を読んでよくわかった。そういう意味では、思想史家としての丸山だけに関心のある人には向かない本かもしれない。が、丸山の人間像を知るには読まざるを得ない本だと思う。
もっとも興味をそそられたのは、フルトヴェングラーを例に挙げて、ナチス独裁政権下の明日をも知れない極限状況でこそベストの演奏ができたのではないかとの問いに丸山が苦しい返答をせざるをえなかった記述だ。丸山とは離れるが、極限状況下の優れた音楽演奏はよくあることで、あの名ピアニストのリパッティも、ジャンルは違うがジャズ演奏のコルトレーンも、自身の肉体が滅びる寸前に偉大な演奏を行なっている。
著者が車で丸山を別荘まで送る際の、丸山のひどく喜ぶさまを描いた箇所も面白い。かつては東大法学部で丸山の講義を受け、いまは公用車での送り迎えに慣れきった亡国の高級官僚や財界のお偉方に読ませたい。
師匠丸山の文章とは対極のように、流れるようなかろやかな文章でスラスラと読み飛ばすことができるが、そのぶん軽薄で大袈裟で俗っぽく、筆が流れすぎる嫌いがあるのが唯一の欠点か。
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