講談社による中国史新シリーズの第5巻です。魏晋南北朝が対象です。この時代は両漢古代帝国の崩壊直後にあたり、古代的混乱の克服と中世的安定への志向という2つのベクトルが交錯する中、周辺諸族とのインタラクションによって中原的文明が変容・拡大していきます。本書では、メリハリの効いた論述により、そうした時代の特性を浮き彫りにしようとしています。
その他、特に気付いた点は概ね以下のとおりです。
(1) 孫呉や東晋による江南開発に光をあて、その過程における漢蛮交流による中原的文明の変容や「漢民族」アイデンティティーの生成を論じます。「中国的なるもの」の本質を考える上で、大切な示唆に富むものと感じました。
(2) 北朝史についても比較的詳細に論じられています。孝文帝の改革には特に一章を割いており、その背景や歴史的意義の分析には相当力が入っています。
(3) 古代帝国の崩壊が周辺世界に及ぼしたインパクトとして、北族や日本・朝鮮などにおける独自の中華意識の形成に着目し、これを中華的イデオロギーの拡大再生産といったポジティブな角度から分析しています。
逆に、中国プロパーの政治・社会的発展については簡単な記述に止まっている観がありますが、単なる事実関係の羅列に堕さず、時代の本質をハッキリさせようとする姿勢に感心させられました。多くの東洋史ファンにオススメしたいと思います。