決してハッピーエンドではない、
という点で、これまでのスポーツノンフィクションとは一線を画する魅力がある、と思う。
結果論で語られがちなスポーツの世界において、
そこに生きる選手へスポットライトを当てたノンフィクション作品は、
どこかで選手に迎合し、実績に依存した、一次元的な美談が少なくなかったのではないだろうか。
しかし本書は、違う。
きれい事だけでは成り立たないスポーツの特異性から逃げずに、本質に挑もうとする迫力に溢れている。
本の前半で詳しく書かれている通り、中澤選手のキャリアは、
日本サッカーのトップリーグであるJリーグにあって、異端中の異端だ。
エリートとは程遠く、努力だけでたどり着けたわけでもない。
それゆえに、彼の物語を振り返ったときに登場する人物たちも非常に多様である。
多角的である。
誰かにとってはスーパースターである中澤選手も、
誰かにとっては最悪のヤツなのだろう。
あたかも、都会の人間にとっては不要なものでしかない雑草が、
ある生態系にとっては欠かせない重要な命であるように。
そう思えると、タイトルである「不屈」の真義がぐっと深まる。
これまで中澤選手を良いイメージで見てきた人には新鮮な一面が、
悪いイメージで見てきた人には知られざる一面が、
いずれも大きな魅力として発見されるのではないだろうか。
とても確かな奥行きと共に。
また、後半で詳細に描かれている日本代表とワールドカップに関する部分も興味深く、
読み休ませる暇を与えてくれない。
辛辣な個所も含め、ワールドカップ南アフリカ大会が終わってから2ヶ月に満たないタイミングで発売されたにもかかわらず、ここまで深く切り込むことのできた、著者ならではの鋭い密着力に驚かされる。
中澤選手の想いも、著者の想いも、生々しいライブ感を伴って、
ある種の混沌を解決しきれないまま描かれている。
ここでも、「誰かが悪いからこうなった、誰かが良いからこうなった」、
といった短絡的な因果関係に陥ることのない、
明確な姿勢が貫かれていて心地よい。
南アフリカでの日本代表の戦いには、一般のファンも含めて本当に数え切れない人々が巻き込まれている。
絞りだされるべき最終的な総括は、決して軽いものではない。簡単にされてもらっては困る。
そうした意味で、これは本当に「信頼できる」一冊といえるかもしれない。
サッカーが好きな人も、中澤選手を知らない人も、
早めに本を手にとることを心からおすすめしたい。