アルクル=ベータでの中性子星作戦の最終実験台として7D人間ヴァンネとケロスカーを突入させようと迫るラール人と危機に駆けつけるNEI政府首席ティフラーとの静かな駆け引きと、惑星ゴシュモス・キャッスルから別惑星へ炎の飛行士ムシーラーを移住させようと企むコンセプトの計画を巡るテラナー陣営との攻防を描く大長編SFスペース・オペラ宇宙英雄ローダン・シリーズ第419巻。本巻の執筆者は安定感抜群の大ベテランの味マールです。本書の2つのエピソードに登場する主役のコンセプト二人の方向性が対照的で、それぞれの考え方の違いが面白いです。人類を助ける為に楽園を捨ててラール人との険しい戦いの道を選んだケルシュル・ヴァンネと、‘それ’の考えに盲目的に従い理想の楽園への道を選んだグルケル・アソシェン。この個性の強い二人の進む道が交差する興味深い物語が何時か読めます様にと願っています。
『中性子星の呪縛』クルト・マール著:ラール人ホトレノル=タアクは7D人間ヴァンネがスパイである可能性を考慮し、SVE艦《ギュロソル》にある罠を仕掛ける。一方NEI政府首席ティフラーは旧ミュータント・タコの精神を体内に宿しレジスタンスのラール人パルとヴァリオ=500と共にアルクル=ベータへヴァンネの救出に向かう。本編では次元の裂け目で迷った瓦礫人の監視者ケンパーの脅威に対して無敵のロボット・ヴァリオ=500を、コンセプト・ヴァンネの《ギュロソル》からの脱出にはテレポーターのタコ・カクタの意識をと、ちゃんと準備が為されている用意周到さに感心しました。そして簡単には事を終わらせずに時空乱流という障害でサスペンスを盛り上げ、同時にそれを欺瞞作戦の最後の仕掛けに利用する巧みさも誠に素晴らしい技の冴えだと思います。『炎の飛行士の楽園』クルト・マール著:炎の飛行士ムシーラーのイティ・イティ族の最長老ミツィノはある夜楽園へと招く神のお告げの夢を見るが、朝になって種族の全員が全く同じ夢を見たと知って驚く。本編ではロワ・ダントンとテラ・パトロールのテラ陣営の側に立つ伝説のミュータント・アダムスがアソシェンらコンセプトの進める謎の計画を暴こうと奮闘する活躍が見事ですが、‘それ’の名前が出た途端に畏敬の念からか急に大人しくなってしまったのが腰砕けで少しだらしないなと思いました。そして、長老ミツィノが最後に選んだ道の動機が私には何とも不可解で未だに謎のままなのですが、これは如何様にも考えられる様にわざと曖昧にして読み手に解釈を委ねようとされたのだとしか考えられません。
本巻の翻訳者、2巻連投の嶋田洋一氏のあとがきは昨年「異星人の郷」の翻訳で星雲賞受賞と「SFが読みたい!」の長篇1位を獲得されためでたいダブルクラウンを祝ってSF仲間の友人達が開いてくれたパーティーの一般人には理解の及ばぬその異様な雰囲気を紹介されています。‘それ’の考える事は突拍子もなく人間には所詮理解不可能で、次はどんな奇想天外な計画で驚かせてくれるのか?百戦錬磨の達者な名手マールの次巻続編に期待したいと思います。