中国東北部、戦前日本の植民地であった旧満州地域を韓国人の筆者が旅をし、日本が支配した時代の建物を追い求め、現在も中国に在住している朝鮮族の人々の生活や風習を感じ取った旅のエッセイです。
筆者の1967年生まれの鄭銀淑さんは、戦前の状況は知りませんが、問題意識と関心が高いこともあり、しっかりと訪れるべき場所の選択、体験すべき事柄など、的確で読んでいて参考になることが多いルポでした。
すでに『韓国の昭和を歩く』(祥伝社発行)を出している筆者です。今回は範囲を移し、「五族協和」のスローガンを掲げた満州の奥深い街の延辺朝鮮族自治州(朝鮮族の多い町)まで訪れており、類書とは一味違う内容でしょう。ソウルの大学院を修了後、日本に留学されたこともあり、日本語の文も読みやすく的確でした。
食べ物の話では、34ページの羊肉串のように、「本場の味」も確認していました。龍井の旅では、その地域に「草家」がまだ残っており、昔ながらの庶民の住空間を垣間見て「涙が出そうだった」という感想をもらしています。今の韓国には無くなった風習がまだこの地域には残っていることが本書で伺えました。
133ページには、中朝国境を流れる豆満江にイカダを浮かべて北朝鮮領を写しだしている珍しい写真も披露していました。
164ページにあるように満州時代には「新京観光バス」が走っていたようで、それと同じルートをタクシーで追い掛け、当時の建物をルポしていました。旧日本総領事館、三中井百貨店、東三条街など、当時の満州の面影をたどる旅は興味をひきます。
長春(新京)にある旧関東軍司令部官邸、旧満州国務院、旧満州国軍事部、旧ヤマトホテル、旧関東軍司令部、東本願寺新京別院、日本神武殿などの建物が現在も使用されている実情や「重点文物保護単位」として建物が残されている状況はなかなか伺えないものだと思いました。
瀋陽(奉天)の奉天駅と東京駅の近似性や、「浪速通り」の賑わいを追いかける箇所の文は戦前の華やかさを感じさせました。
満州一の大連ヤマトホテルの豪華さを述べている278ページからの文章もノスタルジアを感じさせるもので、大連の繁華街だった連鎖街の様子と共に一度訪れたいと思わせる内容でした。