中国文学研究者の吉川幸次郎氏による、中国文学の時代ごとの性質、あるいは時代を超えて普遍的に含むについて論じた著書。全160ページ強の約半分を占めるNHK文化講座での講演が初出の「中国文学入門」を核に、その論考と関連のある文章を収録している。書き下ろしではなく、アンソロジーという体裁を取っている。
何といっても読み物は「中国文学入門」だが、十代の頃むやみにヨーロッパの文学に目を向けていたころには気がつかず気が回らなかったことに日々の暮らしで気づくようになった最近の心情に強く響いてくる内容があった。具体的には中国文学の系譜を詩経から楚辞、五言詩、陶淵明、杜甫、李白、白居易と詩の形式で追った後に韓愈をはじめとする唐宋八家文、戯曲、その後に小説が来て、近世詩と近世の散文に触れて、最後に魯迅などの近代小説を紹介する、というとてもオーソドックスでスムースな筋を示していて、内容についても興味深いところが多くあった。ここで挙げられている詩や散文を読むときに儒学の書物や老荘の思想を併せて捉えていくことが、内容を深く感じ入るのに効いてくることがわかったし、自分としては杜甫の詩に強い興味を持った。他の文章も、前半で示した範囲の議論を、各論的に語っていて面白かった。
現実についての日々の生活を通した手ごたえと、現実かくあるべしという理想が共に強いさまが思い浮かんだ。是非具体的な文学作品を読んでみたくなる一冊。